子どもたちが学んでいる姿を残したい!休校が決まっている福島県浪江町立浪江中学校のAR活用法
福島県双葉郡浪江町の浪江中学校で、町内の風景を表した切り絵に専用のARアプリをかざすと、町内の風景と生徒によるレポート動画が流れる、ARコンテンツが作成されました。このコンテンツは双葉郡の8町村の子供たちが参加するふるさと創造学サミットなどで発表され、浪江町の姿と東日本大震災からの復興の様子を伝える方法として好評で、現在も様々に活用が続けられています。
休校が決まっている浪江中学校が直面していた課題
2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響で、2019年3月末での休校が決まった浪江中学校では、学校がなくなってしまう前に、震災前の街の様子や復興の様子、震災の影響のなかでも生徒たちが力強く学んでいる姿を残したい、みんなに知ってもらいたいという思いがありました。
浪江中学校の休校は、在校生にとってはもちろん、卒業生やその家族、さらには町の住民にも、衝撃の大きな出来事でした。「このまま学校がなくなってしまうと、過去の記憶までもがなくなってしまうのではないか」町民にはそうした喪失感もあり、休校前に町の記憶や子どもたちの学習の記憶を残す方法を模索していました。
先生方は、生徒たちのありのままの姿を残す最適な方法として「動画」の活用を考えましたが、その配信方法に悩んでいました。そのようななか、双葉郡8町村が集まって、震災後の子どもたちの学びを守り、未来を生きる強さを持った人材に育てることを目指す福島県双葉郡教育復興ビジョン推進協議会で配布された広報誌「ふたばの教育」に設定されていたCOCOARでAR動画を体感した際に、ARならば生徒たちがフィールドワークや動画作成を楽しみながらおこなえるうえ、紙面や立体物など活用の幅が広いと思い、今回の活用に至りました。
ARを活用することによって残すことができた浪江町の記憶
ARマーカーと動画の作成は、どちらも子どもたち自身の手でおこないました。
町の記憶を残すために、モニュメントやアートを制作するというアイディアがあったため、子どもたちは浪江町のさまざまな場所でフィールドワークをおこなって浪江町の風景の切り絵をARマーカーとし、ARで表示される動画は、フィールドワーク調査のレポートと各地で撮影した静止画からパワーポイントを利用して作成しました。専用のARアプリを切り絵にかざすと、浪江町の風景と子どもたちが調査したレポート動画を見ることができます。
この作品は、双葉郡の8町村の小中学校が集まる、ふるさと創造学サミットで発表され、多くの人から好評を得ました。生徒としても、先生としても、作品を通じて、町の記憶を残すことができたことに達成感を得ることができたそうです。
作成した動画は当初、学校のホームページにアップして発表しようと考えていましたが、学校がなくなってしまうと、ホームページも管理ができるかどうかわかりません。そのため、ARコンテンツをつけた切り絵は町役場に寄贈し、町の教育長の後援もあって役場にて展示されることになりました。今後も浪江町役場で切り絵とARの動画を見ることができます。
また、この切り絵を原画として絵はがきも作成されることとなり、絵はがきは町役場や地元の商店街、県外のアンテナショップなどに置かれる予定であるため、今後も絵はがきや付随するARを通じて、たくさんの人に浪江町の子どもたちの活動と町の記憶が届くことになるでしょう。
ARの利用で、子どもたちの学習の成果が町の文化資産として残ることは、浪江町としても浪江中学校としても新しい貴重な経験となりました。先生方は、今後機会があればGPSを利用したARを、総合的な学習の時間に活用することについても検討しているそうです。
教育現場でのAR活用のこれから
近年、情報通信技術の発達に合わせて、教育現場でもパソコンなど情報通信機器が活用されるようになりました。そのようななかで、以前は教師が授業をわかりやすくおこなうために情報通信機器を活用していましたが、現在では生徒が実際にパソコンやスマートフォンを取り扱い、授業の中で活用するケースが増えてきています。
今後は学校内での活用だけでなく、学習記録や成果の外部発信や地域との関係性を持つことで、地域活性や地域貢献、地域コミュニティの形成および維持にもつながることが期待され、今回の浪江中学校のような取り組みが全国各地で広まっていくことが望まれます。