現役の文学部生が『国文学研究資料館』へ行くと、そこは最先端であった
こんにちは!ARGO編集部のカツベです。
今日は東京都立川市にある国文学研究資料館にやってきました。
国文学研究資料館とは、大学共同利用機関法人人間文化研究機構を構成する6機関のうちの一つで、国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻が設置されている施設です。・・・つまり、日本の国文学のすべてがここに結集しているということ!
大学では文学部に在籍し、歴史を学んでいるカツベ。わくわくが止まりません。
今回取材するのは、2018年10月15日~12月15日まで開催されている特別展示「祈りと救いの中世」です。この展示では、国宝・称名寺聖教をはじめとした寺院に現存する貴重な古典籍を中心に、中世における信仰と文学との関係を示す約90点の資料が展示されています。
ああもう、このポスターを見るだけでもわくわくが激しくなります。それではさっそく入館しましょう。
展示は、地獄をめぐり、当時の仏教思想を反映したさまざまな文学作品などを見渡しながら、最後には極楽往生へと導かれる構成になっていました。展示室はどうしてこうも人の心を刺激するのでしょうか。一つ一つじっくり見ていきます!
地獄物語の『往生要集(おうじょうようしゅう)』を発見!地獄の恐ろしさと念仏のご利益を説いた仏教書です。文字だけでなく絵にも描かれている『往生要集』を初めて見ました。絵が漫画のようなタッチで描かれていてとてもかわいらしいです。
「紫式部聖像」も興味深いです。紫式部が石山寺にこもって『源氏物語』を著わしたのは、あまりにも有名な話ですね。高校2年の秋、紫式部の足跡を訪ねて石山寺詣をした懐かしい思い出がよみがえります。
その他にも、骸骨の一生を描いた絵巻など、思わずにやけてしまうような展示品がたくさん。これが無料で見られるなんて、国文学研究資料館は本当に素晴らしすぎます・・・!取材も忘れて、館内を飛び回ってしまいました。
するとここで、なにやら陽気な骸骨が描かれた看板を発見。
でじたる展示こーなー・・・?
展示室の端にブースを発見。どうやらここのようです。
コーナーに入ると、骸骨のプロジェクションマッピングがお出迎えしてくれました。実にキュートですねえ。
「でじたる展示こーなー」では、現実を超える体験ができると言われている8Kディスプレイを用いた超高画質デジタル展示をはじめ、ARやAIなどを利用した最先端の展示がおこなわれています。
さて、それでは南北朝時代に描かれた「当麻曼荼羅(たいままんだら)」をARでじっくり堪能したいと思います。 COCOAR をインストールしたスマートフォンをさっそくかざしてみましょう。
なんと!ARで読み取った部分が拡大されて、スマホの中に表示されました。実物の展示では見ることができない細部まで、手元でじっくり見ることができます。曼荼羅ができるまでの物語が、この「当麻曼荼羅」の中に隠されていました。
そして、画面の絵をタッチすると解説もばっちり読むことができます。「阿弥陀如来とは・・・」ふむふむ。勉強になりますな。
こちらの展示は、見たい絵にスマートフォンをかざすと音声で現代語訳を読み上げてくれるとのこと。「富士の人穴」なんておどろおどろしい名前ですねえ。びくびくしながらスマートフォンを近づけてみると・・・
よりによって出てきたページは、地獄の獄卒が剣で出来た山に女性を追い立てている絵です。怖いですねえ。音声を聞くと、なおさら恐怖が増します。
デジタル展示は一般展示に比べ、より臨場感を味わうことができる展示になっていました。
館内を見て回ったところで、デジタル展示の企画をされている北村さんにインタビューをすることができました。
カツベ「よろしくお願いします。特別展は興奮しながら見させていただきました。デジタル展示も実物では見えにくい作品の細かな部分まで見られたので、とても楽しかったです」
北村さん「喜んでいただいてありがとうございます。巻子や綴本などの資料は一枚物の絵画と違って物理的に一部しか展示できないので、最初から最後まで見てもらいたいという思いがきっかけで、デジタル展示を始めました。さらに展示環境によっては肉眼で十分見えない細かなところや、時間の経過とともに劣化して見え難くなった資料をもっとよく見えるようにするのはデジタル技術が得意です」
カツベ「なるほど、実施の背景には北村さんの熱い思いが込められていたんですね。こうして僕たちが資料を見られるようになるまでには、どのような苦労があったのでしょうか」
北村さん「資料を画像でお見せするだけでなく、場面の説明やくずし字の読み方、現代語訳など、どんな情報が理解の助けになるか、展示企画の担当者と綿密に打合せをしてデジタル情報を加工します。もちろんそのためには、ご所蔵者のご理解やご協力が不可欠で、展示担当者とともに、ご理解いただけるよう、努めました」
カツベ「デジタル展示を利用する人たちからは、実際にどのような反応がありますか」
北村さん「来館して実際に体験してもらった人にはとても驚かれます。先日、美術史の先生が来られた時も、8Kモニタで資料を拡大しながら『ここを書いている筆遣いの特徴から、これは誰々の作品だ』というような解説をされていました。また高校生が来館された時には、やはり慣れたものでさっと自分のスマホにアプリをダウンロードし、年配の方に教えてあげていました。内覧会の時には実物の展示より先にデジタル展示に足を運ぶ方もいました(笑)そういったところで、なかなか好評をもらっていますよ」
カツベ「実物の展示より先にデジタルを見るんですね(笑)」
カツベ「AR展示で、何か課題はあるでしょうか」
北村さん「今回のAR展示では一つの作品の絵の中に、細かく描かれた隣り合った数多くの絵すべてにARマーカーを設定しました。でもここに問題があって、タブレットで読み込もうとすると、カメラの中にたくさんのARマーカーが写り込んでしまうので、自分が視たい絵をピンポイントでスキャンすることが難しかったです。今回はタブレットではなく、少々画面が小さくなりますがスマートフォンを設置しています。」
カツベ「そんな理由があったのですね」
北村さん「ARで難しいこととしては、来館者の方は平均的に年代が高いこともあって実際に『かざしてもらう』ことが最初の難しさでしょうか・・・。置いてあるARの説明書きは驚くほど無くなるのですが、ARのログ情報を見てみるとそれに比べて少ない。興味はあるけど手が出ないといったところでしょう。中には果敢に挑戦される年配の方もいらっしゃいますが、『スマホ?わからない』という方もまだ多いです」
カツベ「ARなどのデジタル展示で若い人も増えるのではないでしょうか。今後、やってみたい企画はありますか」
北村さん「VRの古典展示とか、個人的におもしろそうだなと思います。ARでは、以前、屏風や絵巻物・歴史史料を対象に行ったことはあるのですが、資料を傷めることなく展示物そのものを当たり前に直接かざせる展示会にしていきたいですね。スマホを持って展示会へ行こう!って」
カツベ「VR展示、古典の世界に入り込めるなんて夢ですね。ARも、原物資料の古語にかざすと現代語訳がそのまま読めるような仕掛けがあったら、ますます楽しく勉強できるものになるのではないでしょうか。北村さん、ありがとうございました」
さまざまな展示を楽しんで大満足のカツベ。展示室を出ようとしたその時、こんなポスターを発見!なんと、たびたび出てきたあの骸骨君と一緒に写真撮影ができるというのです。
骸骨君とのツーショットが撮れてすっかりご満悦です。
今回の取材で国文学研究資料館のリピーターになることを確信したカツベ。次は大好きな『枕草子』の展示があることを期待して資料館を後にします。それではまた!