「AR」が世の中に広まった背景とは?拡張現実の歴史をたどる
「Pokemon GO」の流行で有名になった「AR」という技術の始まりや歴史に関してまとめました。ARという技術がどのような歴史のもと、発達してきたのか、今後のARに関しても知ることができます。
目次
「AR:拡張現実」の始まりとは
ARとは「Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)」という英語を省略した言葉で、日本語では「拡張現実」と呼ばれています。「現実を拡張する」という考え方自体が生まれたのは、1901年のこと。「オズの魔法使い」で著名なアメリカの作家Lyman Frank Baum氏が、『マスター・キー』という長編小説の中で「人物の額の上に、その人の性格が表示される」という眼鏡を登場させ、後の時代から見ると、このアイデアがARの起源であったようです。
「AR」と似た存在として「Virtual Reality(仮想現実)」が挙げられますが、VRは仮想の世界の中に自らが入りこむような状態や、環境を作り出す技術であることに対し、ARは現実の世界をメインとし、スマホの中など一部に仮想の情報が表示された状態および同技術のことを指す、という違いがあります。
「Virtual Reality=VR」という言葉は1989年にアメリカの科学者Jaron Lanier氏によって、また「Augmented Reality=AR」は翌1990年に航空機技術者Tom Caudell氏によって提唱され、以降、技術が広まるにつれて人々に認識されていきました。
1990年代、進む「AR技術」の開発
ARという言葉が誕生して以降、同技術の研究・活用が大いに進められることとなります。1992年には米空軍・Armstrong空軍研究所が、航空機パイロットの操作能力を向上させるために「Virtual Fixtures」というARシステムを開発しました。
また翌1993年にはコロンビア大学が、機器の修理やメンテナンスをおこなうためのARシステム「KARMA」を発表。ヘッドマウントディスプレイを装着すると、修理すべき部分がCGで表示される画期的なシステムでしたが、超音波センサをすべての対象物に取り付ける必要があるなど実用化には課題があったようです。
2000年代、「ゲーム分野」にARが登場
2000年には、南オーストラリア大学の研究室の試作機として、ノートパソコンを背負い、銃型のコントローラで現実世界に現れるモンスターを倒していくARシューティングゲーム「ARQuake」が開発されました。
日本でもARを使ったゲームプロジェクトが始動。2007年には、トレーディングカードゲームとテレビゲームが融合したPLAYSTATION 3用ゲーム「THE EYE OF JUDGMENT」がソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されます。ゲームソフトに付随する専用のUSBカメラでトレーディングカードを読み取ると、ゲーム画面にリアルタイムでキャラクターが表示され、視覚的にバトルを楽しむことができました。
2009年、GPS型の『セカイカメラ』登場
日本では2009年に、GPS機能を使って現実空間にある「エアタグ」という情報のARを表示するアプリ「セカイカメラ」が頓智ドット社からリリースされました。当時QRコードが主流となっていた日本では、マーカーを読み取ってARを表示する方法が増えていましたが、エアタグはGPS機能によって特定の場所に固定されるAR。アプリリリースの2009年9月24日から4日後には、セカイカメラのダウンロード数は10万を超え、2014年のサービス終了までに300万ダウンロードを超えました。
2014年、「エアタグ」の人気と、終了に至るまで
「エアタグ」は、スマートフォンや携帯電話から誰でも登録することができる上、Twitterと機能が連携されていたこともありSNSにおける画像投稿が盛んになりました。自分以外の誰かが作ったエアタグを誰でも投稿・閲覧でき、エアタグに対する感想の返信もできるというコンテンツ共有感も特徴的でした。「実際の場所に行かないとエアタグの投稿や閲覧ができない」という特性から、リリース後は多くのイベントも開催され、世界のトレンドになります。
しかし、サービスが人気になるにつれて、ユーザーから投稿されたエアタグの数は膨大なものとなり、投稿が集中した場所によっては情報が集まりすぎて読むことができない状態にまで及ぶというケースも頻出、さらにGPSの精度も現在ほど高くなかったためにエアタグが本来の位置から外れた場所に配置され、情報として機能しなくなってしまったのです。
サービス当初は今までにない新しいアプリとして注目されたセカイカメラでしたが、人の行動範囲内で利用するだけでは少しずつ新鮮味が薄れてしまったのか、日常的に使われることが少なくなっていきました。また、当時はスマートフォンが普及し始めて間もない頃だったため、エアタグを投稿するために「街なかでデバイスをかざす」という行動が不自然に映ることもあったようです。やがてセカイカメラは2011年から徐々にサービスを縮小、エアタグの総投稿数は150万件に及んだものの、2014年にはすべてのサービスを終了しました。
2010年代前半、「ウェアラブルデバイス」のリリース開始
頭に装着するタイプのヘッドマウントディスプレイや、腕時計や眼鏡型のウェアラブルデバイスを使用したARの開発も進められます。2013年には、Googleが眼鏡型の「Google Glass」の開発を発表。着用すればいつでもインターネットに接続でき、天気、交通情報や店舗情報など日常生活に役立つ情報を表示する展望がありましたが、プライバシー侵害等の問題が取りざたされ、2015年には開発が中止となりました。現在は一般への普及ではなく、建設や医療の分野で現場作業を補助するためのデバイスを目指してプロジェクトが移行し、開発が続いています。
スマートフォンに取って代わる次世代型デバイスとして注目を集めるウェアラブルデバイスは、2015年にマイクロソフト社からも「HoloLens」が発表されました。没入感のある体験だけでなく、作業効率の向上や共同作業における意思疎通のしやすさを提供するために開発されたHoloLensは、音声認識やハンドジェスチャで操作できるARとして注目を集めました。
出典:engadget
2016年、『Pokemon GO』の大ヒット
2016年には、ARを使った位置情報ゲーム「Pokemon GO」がNiantic社よりリリースされ、世界中にポケモントレーナーが現れました。世の中に「AR」という言葉を広め、リリースから2年が経った2018年10月には、世界150カ国以上で8.5億ダウンロードを突破し、現在でもその熱狂は続いています。
出典:Stuff
Pokemon GO以降も、「妖怪ウォッチ ワールド」のリリース、「ハリー・ポッター:魔法同盟」がリリース予定となるなど、現実世界を舞台とするARゲームが増えています。
2020年 5Gの到来
2020年には、日本で5G(ファイブジー、第5世代移動通信システム)インターネット回線サービスが本格的にはじまりました。
5Gは、4Gと比べてより高速・大容量での通信が可能なため、Webサービスの遅延の低減が実現され、多数の端末による同時接続も可能になります。ARやVR・MR(複合現実=ARとVRのような仮想現実的情報を現実世界に融合させる技術)のような最新テクノロジーでは、映像や3DCGなどの大容量コンテンツをリアルタイムで反映させるために大量のデータ処理が必要ですが、5Gによって短時間での処理が可能となり、利用の幅が広がりました。
5GとARを利用したサービスは、即時性が必要な医療現場などで利用されているほか、スタジアムでのスポーツ観戦やコンサートでのライブ鑑賞に新たな体験を付与しています。
5G環境が整ったことにより、新たなARサービスは加速度的に開発され、利用も広がっています。2020年11月時点では、5Gの活用も限定的なエリアでの利用となっていますが、今後5Gが広いエリアで提供されるようになれば、日常生活においてARはより当たり前のものとなっていくことでしょう。
今や生活の一部となりつつある「AR」
アプリやゲーム、デバイスの登場により、ARが少しずつ一般にも認知され、生活のあらゆる場面でARの利用が増えています。 例えば、「地図」や「外国語」が読めなくてもARがナビゲーションをしてくれることで道に迷わなくなったり、ARで化粧品の試し塗りができることで化粧を落とす手間を省いて商品のお試しができたり、自分の部屋で家具を部屋に配置したときのイメージができたりと、ARの登場によってより便利な世の中になってきています。
また前述の通り、2020年には5Gのサービスが本格的に開始されることで、ARの利用の幅は増え、加速しています。
さらに、2020年の新型コロナの影響下では、外出や人間同士の接触が制限された状況においても、ARの特性を活かして、これまでの既存のサービスをアップデートするような働きが広がっています。
「AR」の概念の誕生から100年あまり、その間に大きな進歩を遂げてきたARが今後はどのような発展を遂げていくのか、期待が高まります。